2025年 杭州市の知的財産権訴訟の受理件数が約1万3000 件
AI 関連案件の課題が顕在化
4月23日、浙江省杭州市中級裁判所は、2026年知的財産権司法保護広報週間の記者会見を開催した。統計によると、2025年、杭州市内の裁判所が受理した知的財産権関連の訴訟案件が計1万2997件に達し、前年比 35.91%の増加となった。そのうち、繰り返しの侵害や悪意のある侵害案件28件に懲罰的賠償が適用され、賠償総額は5735万6600 元(約 13億 4500 万円)に上った。
杭州中級裁判所が同日発表した『AI 関連の知的財産権裁判白書』によると、過去 5 年間、杭州市内の裁判所が受理した AI 関連知的財産権訴訟は 40 件余りにのぼり、うち22件はこの2年間に集中している。案件の急増、類型の複雑化・多様化、争点の集中化・顕在化といった傾向が見られる。
具体的な司法実務において、AI 関連の知財訴訟は、依拠すべきルールがなく、先例が乏しく、統一的判断基準がまだ整備されていないなど多くの難題に直面している。杭州知的財産権法廷の王亮裁判長は、「法的に特徴や性質を判断する上で、既存の法制度は、AI技術の特性や新たな応用場面への対応において、規則の適合性が不十分である。また、AI産業チェーンが長く、関与している主体の役割も多様なため、各当事者の責任の所在をいかに明確かつ公平に画定するかも、司法実務における大きな課題となっている」と述べた。
AI 技術の急速な進展に対し、法制度がどうしても後追いとならざるを得ない現実を踏まえ、杭州市の裁判所は「司法の確実性」をもって「技術の不確実性」に対応する姿勢を堅持し、個別案件の審理を通して相対的に安定した裁判規則の予測可能性を確立し、技術イノベーションと産業応用に明確な指針を提供している。
例えば、浙江省初のAIを利用した顔認証(生体認証)偽造事件の公益訴訟では、AI顔交換技術を用いて生体認証用の動画を偽造し、個人情報を違法に取得・販売した行為について、裁判所は「不特定の個人の権益を侵害するだけでなく、デジタル社会における信頼秩序を損なった」と認定し、当該行為について公共利益を損なう行為と位置づけ、司法保護を個別救済から社会システムの信頼維持へと拡大した。
技術イノベーションが活発な特許分野においては、権利範囲の明確な画定と訴訟手続きにおける誠実性の確保が同様に重要となる。あるロボット犬の特許侵害訴訟では、裁判所は「クレームに記載された全ての技術的特徴は必須の構成要件であり、侵害の対比評価はそれぞれの技術特徴について一つずつ行う必要がある。いずれかの技術的特徴が欠落している場合、侵害は成立しない」と明らかにし、実務において技術的特徴を恣意的に取捨選択する誤った認識を是正した。
杭州中級裁判所の池海江副所長は「AI関連訴訟の司法判断は、個別案件の技術的・法的評価に留まらず、技術倫理、イノベーション促進と権利保護のバランスをとる機能を担い、技術の発展方向性や社会の倫理規範にも影響を及ぼしている」と指摘した。
https://www.chinanews.com.cn/sh/2026/04-23/10609427.shtml
AI 技術は権利侵害の免罪符ではない
北京高級裁判所が典型事例を発表
他人のオリジナル美術作品をAIソフトに読み込ませて新しい画像を生成し、ネットで販売して利益を得る行為が著作権侵害に該当するかどうかは、長らく議論が続いてきた。北京市高級裁判所は 4月23日に記者会見を開き、『知的財産権司法サービスの強化による新たな質の生産力の発展の保障に関する意見』及び典型事例を発表し、司法判断の基準を示した。
会見において北京高級裁判所民事第三法廷の張暁津裁判長は、典型事例に選定された「AI生成モデルの悪用による著作権侵害」案件について「技術イノベーションの応用と知的財産権保護の両方を考慮し、AI 技術応用の合法的な範囲を明確にした。AI応用の安全でコンプライアンスに基づく秩序ある発展を促す上で重要な意義を持つ」と説明した。
本案では、被告である電子商取引企業の法定代表者羅被告及び共犯の姚被告が、権利者の許可を得ず他人の美術作品を利用してジグソーパズルを製作し、姚被告が SNS上に開設した2つのEC 店舗を通じて販売し、利益を得た。2024年5月、権利者の張氏は自身のオリジナルイラストの権利が侵害されたとして捜査機関に通報した。調査の結果、被告らは侵害製品のジグソーパズル3000点以上を販売し、違法な売上総額は約 27万元(約 628 万円)に達することが確認された。
一審裁判所は、電子商取引企業及び羅被告ら4名の被告が営利目的で著作権者の許可なく美術作品を複製・頒布し、その他の重大な情状も認められ、企業及び被告らの行為はいずれも著作権侵害罪を構成し、法律に基づき処罰すべきと判断した。被告企業に罰金 10万元(約 230万円)、羅被告・姚被告にそれぞれ懲役1年6月及び罰金6万元(約 140 万円)が言い渡された。また李被告・王被告には執行猶予付き判決と罰金2万5000元(約58万円)が言い渡された。
この判決は、「AI 技術は権利侵害の免罪符ではない」という立場を明確にした。すなわちAIをツールとして、権利者の許可なく他人のオリジナル美術作品を複製・頒布し利益を得る行為は、著作権侵害罪の構成要件を満たす。また本判決は、企業犯罪と共犯の認定基準を明確にし、「画像の不正取得、AI 加工、EC販売」という一連の侵害行為の流れを厳しく取り締まり、デジタル経済時代の新しい知的財産権犯罪に対する強い抑止効果を持つものである。
会見ではこのほか、デジタルヒューマン関連の著作権侵害訴訟、「某医生」インターネット医療プラットフォームをめぐるデータ不正競争訴訟などの代表的案件も発表された。北京高級裁判所の任雪峰副所長は「北京市の各裁判所は、世界最先端科学技術パークの構築、『AI+』行動計画の全面実施、未来産業パイロットエリアの建設を中心に、知的財産権の司法保護を一層強化している。また北京(京津冀)国際科学技術イノベーションセンター及びグローバルデジタル経済ベンチマーク都市構築のニーズに的確に応え、北京が競争力ある新たな質の生産力の発展構造を築くために強固な司法保障を提供する」と述べた。
https://www.chinanews.com.cn/sh/2026/04-23/10608949.shtml
北京朝陽区裁判所 AI 生成コンテンツの権利保護に関する訴訟が増加傾向
2023年から2025年にかけて、北京朝陽区裁判所が受理した知的財産権訴訟案件はそれぞれ 3828 件、4206 件、5080 件であり、3 年間で合計1 万 3114 件に達した。AI 生成コンテンツに関する権利保護に関する訴訟は増加傾向にある。原告の多くは個人であり、AIを利用して多数の簡単な画像を生成し、他者が許可を得ず当該画像を使用する行為を著作権侵害と主張している。
4月23日、朝陽区裁判所は記者会見を開き、『知的財産権裁判による地域の質の高い発展を支援する白書(2023―2025年度)』を発表した。同白書では過去 3 年間の知的財産権民事訴訟の審理状況、特徴・傾向、施策成果及び典型事例がまとめられている。
白書によると、過去3年間、朝陽区裁判所の知的財産権訴訟は全体として増加傾向にある。案件類型別では著作権関連が 59.42%、商標権関連が 25.17%を占める。不正競争関連・技術契約関連の訴訟は、割合は小さいものの、着実に増加している。訴訟終了の状況を見ると、和解・取下げによる終了が 8010 件で全体の 59.34%を占める。判決により終了した案件のうち、賠償額が 1000 万元(約2.3億円)を超えるものは73 件にのぼり、最高賠償額は1億 8800 万元(約43億8000 万円)に達した。
朝陽区裁判所民事第五法廷の田芬裁判官は、知的財産権民事訴訟の特徴として AI 関連紛争が司法のホットトピックとなっており、AI 関連の紛争は全体件数に占める割合は高くないものの、社会的関心が大きく、規則形成の観点から重要な意義を持つと指摘した。
田芬裁判官はさらに「AI 生成コンテンツの権利保護に関する訴訟案件が増加し続けている。原告は、自ら AI で大量の簡単な画像を作成し、他者が無許可で使用する行為を著作権侵害と主張する個人がほとんどである。こうした訴訟の審理には複数の課題がある。すなわち簡素なプロンプトで生成された画像は独創性の基準を満たしにくいこと、AI には著作者性がないため権利帰属の認定が困難なこと、現行法に AI 生成コンテンツの保護に関する明確な規定がなく法律適用が難しいこと、対象画像の商業的価値が低いケースが多く賠償額の判断の統一基準が確立されていないこと、などが挙げられる」と述べている。
