『2024年中国知的財産権保護状況』白書が発表
先頃、『2024年中国知的財産権保護状況』白書(以下、「白書」という)が発表された。保護の成果、制度の整備、審査・登録などの面から2024年度における中国の知的財産権保護の進展を紹介している。
保護の成果について、知的財産権保護の水準が継続的に向上した。全国の裁判所で新規に受理された知的財産権民事一審案件は45万件、検察機関が受理した知的財産権の侵害・逮捕案件は7646件、公安機関が立件した知的財産権侵害及び偽物・粗悪商品製造販売の刑事案件は3万7000件、市場監督管理部門が処理した商標・専利などの分野における違法案件は4万3900件、知的財産権管理部門が処理した専利権侵害紛争行政案件は7万2000件であった。重点分野における監督管理は引き続き強化され、各関係部門が組織・展開した多くの行政法執行特別行動が顕著な成果を上げた。
制度の整備について、知的財産権の法的保護が引き続き強化された。年間で知的財産権関連の法律・法規・規則約20件が制定・改正され、関連司法解釈2件が制定され、知的財産権保護関連の規範的文書・政策文書20件以上が公布され、地方法規11件が制定された。
審査・登録について、知的財産権審査の効率と品質が引き続き向上した。2024年末時点で、中国の特許有効数は前年同期比14.0%増の568万9000件、商標登録有効数は同7.9%増の4977万7000件、著作権の年間登録数は同19.13%増の1063万600件、地理的表示製品の承認数は累計2544件であった。2024年に受理された農業植物新品種の申請は同3.93%増の1万4839件、林業植物新品種の申請は1338件、知的財産権税関保護届出申請2万9541件が受理された。(出所 中国知識産権局の公式サイト)
https://www.cnipa.gov.cn/art/2025/5/7/art_55_199508.html
最高裁、最高検が知的財産権刑事案件に関する司法解釈を公布
中国の最高裁判所と最高検察庁は共同で記者会見を開き、『知的財産権侵害刑事案件の適用法に関する若干問題の解釈』(以下、『解釈』という)及び9件の知的財産権刑事保護典型的判例を公布した。
『解釈』は、従来の3部の関連司法解釈に含まれていた有効な規定を吸収・統合すると同時に、その3部の司法解釈を廃止して、司法実務の操作性を上げ、刑事案件処理を効果的に規範化し、法律の適用基準の統一を確保するものとなっている。『解釈』は厳格な保護、法に基づく解釈、法治の統一、問題解決志向を堅持し、全文31条からなり、以下の5つの部分で構成されている。
一、商標権侵害に関する規定。『解釈』は、実務上論争の多い「同種の商品・役務」、「同一の商標」、「登録商標標識」などの認定基準をさらに明確化し、従来の司法解釈を吸収・統合した上で、役務登録商標の偽造・偽称など商標権侵害の成立要件を追加規定した。
二、専利製品偽造・偽称に関する規定。『解釈』は「他人の専利を偽造・詐称する」具体的な状況及び専利偽造・偽称罪の成立要件を規定し、実情に合わせて適切に有罪認定基準を引き下げた。
三、著作権侵害に関する規定。『解釈』は論争の多い「著作権者の許諾を得ずに」「複製発行する」などの認定基準をさらに明確化し、従来の司法解釈を統合した上で、著作権侵害罪の認定基準を規定した。
四、営業秘密侵害に関する規定。『解釈』は「窃盗」、「不正アクセス」などの不正手段の認定基準をさらに明確化し、営業秘密侵害における「深刻な情状」の具体的な規定を定めるとともに、損害額・違法所得額などの認定基準を明確にした。
五、知的財産権侵害罪の共通問題に関する規定。『解釈』は、知的財産権侵害犯罪における共同正犯、刑罰の加重・軽減、罰金の適用、企業犯罪、没収・廃棄などの適用基準並びに不法営業額、違法所得額、売上高などの具体的な認定規則をさらに規定した。
『解釈』の公布と同時に、最高裁と最高検は9件の知的財産権刑事保護典型的判例を発表した。これらは実務上よく見られる法律適用上の争点に関わるものであり、『解釈』の精神を反映し、『解釈』の正確な理解と正しい適用に資するものとなっている。(出所 中国最高検の公式サイト)
https://www.spp.gov.cn/zdgz/202504/t20250425_694136.shtml
『中国裁判所の知的財産権案件における法律の適用に関する年次報告(2024年)』(専利の概要)
中国最高裁判所は4月21日、「中国裁判所の知的財産権案件における法律の適用に関する年次報告(2024年)」を発表した。この報告書は、全国の裁判所が2024年に裁判終了した知的財産権案件から43の法律適用規則を整理したものであり、その中の専利案件の判決要旨は以下の通りである。
1.専利権評価報告書の専利権侵害紛争案件における位置付け
【判決要旨】専利権侵害案件において、専利権評価報告書は案件審理において証拠の一つとして用いられるが、係争専利の有効性は依然として専利権付与書類及び行政部門の発効決定書に基づいて判断しなければならない。専利権者が有効な専利に基づき提起した侵害訴訟において、係争専利は権利付与の法的要件を満たさないという専利権評価報告書の否定的結論のみをもって当該権利者に訴権行使する根拠がないと認定して、その訴えを棄却することはできない。
2.関連案件の専利権侵害判断の画一化
【判決要旨】同一の被疑侵害製品、同一の専利権及び同一の非侵害抗弁事由について、関連する案件の認定は一致させなければならず、判決の矛盾を防止する。被疑侵害者が一審判決後に上訴しなかったとしても、二審裁判所は他の確定判決における同一の抗弁事由の成立認定に基づき、法により判決を変更して被疑侵害者の抗弁が同様に成立すると認定することができる。
3.履行条件付きの判決及び履行遅延期間中の債務の利息
【判決要旨】1. 係争専利が財産保全措置の対象となったため専利無効審判手続が中止され、中国国家知識産権局が専利権侵害訴訟判決前に審決を確定できなかった場合、裁判所は案件の具体的状況に応じ、判決で定めた義務の履行について段取りを組むことができる。これには、侵害行為の差止め、損害賠償等の判決事項の履行に必要な条件を付すことが含まれる。例えば、専利権者の提訴の根拠となる専利請求項は国家知識産権局の審査により有効性維持の審決が下されることを履行前提条件として、また、その間の債務利息等についても併せて決めることで、関係当事者間の利益を合理的に調整する。
2.履行条件付きの判決について、履行遅延期間の債務利息を併せて決めることができる。すなわち、判決事項の履行条件が成就した後、発効判決送達日から履行条件成就日まで、全国銀行間同業拆借中心(全国銀行間資金調達センター)が公表する同期間のローンプライムレート(LPR)に基づいて利息(単利)を支払う。判決で定めた履行条件が成就した後も金銭的な支払義務を履行しない場合、履行遅延期間の債務利息を倍額で支払う。
4.専利権無効の審決後に既に執行された専利権侵害判決の取扱い
【判決要旨】1.専利権無効審決が出された後の執行行為は、専利法第四十七条第二項に規定する「無効審決は発効した専利権侵害判決に遡及的効力を及ぼさない事情」に該当せず、関連執行金は一般に執行裁判所が執行取消手続きにおいて執行申出人に対して被執行者へ取得済みの財産及びその果実を返還するよう命じるものとし、裁判所も状況に応じて再審判決において返還を命じることができる。
2.複数の被疑侵害者を対象とする専利権侵害判決において、被疑侵害者の賠償義務履行時期の相違により専利法第四十七条第二項の適用が異なり、公平の原則に反する場合、裁判所は専利法第四十七条第三項の規定を適用して処理することができる。
5. ジェネリック医薬品申請者が専利情報登録前にタイプ1声明を行った場合の取扱い
【判決要旨】医薬品の登録販売者が規定期限内に正確に専利情報を登録したが、ジェネリック医薬品申請者が専利情報登録に先立ってタイプ1声明を行った場合、医薬品の登録販売者は合理的な期間内にジェネリック医薬品申請者に対し声明タイプの変更を要求する機会を与えられなければならない。ジェネリック医薬品申請者がタイプ1声明からタイプ4声明への変更を申請し、または合理的な期間内に変更を拒否し、あるいは他の誤った声明タイプへの変更を申請した場合、専利権者が提起した医薬品パテントリンケージ訴訟について、裁判所は受理し実体審理を行わなければならない。
6.医薬品パテントリンケージ案件における医薬品技術案変更の取扱い
【判決要旨】医薬品パテントリンケージ案件において、裁判所は医薬品審査承認部門の医薬品販売承認のための技術案に基づき、専利の権利範囲に入るかどうかを判断しなければならない。医薬品販売の申請者は、専利の権利範囲に入るかどうかの判断に影響を及ぼす技術案の変更について、裁判所に遅滞なく誠実に説明しなければならず、これに従わない場合は法により不利益な結果を負わなければならない。
7.用途特許の発明者資格の認定
【判決要旨】用途特許は既知の化合物の新しい用途を見出したときの発明であり、肝心なところは既知化合物自体ではなく、既知化合物の新用途の発見と応用にある。「既存医薬品の新用途」というアイデアが研究開発において重要な役割を果たした場合、アイデアを提案した者、具体的技術案の作成または実質的改良、段階的研究開発に実質的貢献をした者は、いずれも発明者になることができる。
8.使用環境特徴の認定及び侵害判断
【判決要旨】使用環境特徴の認定は、係争専利の発明名称、発明主題、専利請求の範囲中の設置等に関する記載に基づき、明細書の内容と合わせて総合的に判断することができる。被疑技術案が係争専利請求の範囲の関連使用環境の特徴を有するかどうかを検討する際、必ずしも被疑侵害製品が使用環境特徴に関連する構成要件を有していることを要求するものではなく、被疑侵害製品が使用環境特徴で限定される使用環境に適用可能であれば十分である。
9.公序良俗に違反し、公共の利益を害する祭祀用品類の発明は専利権の対象とならない
【判決要旨】1.専利制度は科学技術の進歩と経済社会の発展を促進する発明創造を保護することを目的とする。科学技術の進歩と経済社会の発展に実益をもたらさないいわゆる「発明創造」は、専利権保護の対象とならない。専利法第五条第一項を含む具体的な条項の理解と適用は、専利法第一条に定められた立法趣旨に沿わなければならない。
2.司法実務においては、時代のニーズを満たし、かつ国民に認められた公序良俗を提唱すべきである。その祭祀用品が俗信の葬祭用品でなかったとしても、専利法第五条第一項に定められた公序良俗に違反し、または公共の利益を害する情状に該当する可能性がある。
10.専利無効審判の口頭審理における専利請求の範囲の削除補正の受理
【判決要旨】専利無効審判の口頭審理において、中国国家知識産権局が補正後の一部の専利請求の範囲を認めないと判断した場合、専利権者が認められなかった専利請求の範囲を削除することを許可し、残りの認められる請求項を基礎として審査すべきである。当該削除が専利権者の審理の場での口頭による提出か書面提出かを問わず、国家知識産権局は原則として認めなければならない。審理の場で差替ページを提出しなかった場合、国家知識産権局は一定期間内に提出することを要求できる。指定期間内に差替ページを提出しなかった場合、専利権者が法に基づいて専利請求の範囲を補正しなかったものとみなし、これに基づき適切な処理を行うことができる。
11.保護を求める意匠が明確に示されているか否かの認定
【判決要旨】一般消費者の知識レベルと認知能力に基づき、意匠図、使用状態参考図及び一般常識を総合的に考慮したうえで、当該図面に示された意匠に依然として複数のデザイン解釈が可能な場合、意匠出願書類が保護を求める製品の意匠を明確に示していないと認定することができる。(出所 中国最高裁の公式サイト)
https://www.court.gov.cn/zixun/xiangqing/462901.html
最高裁知的財産権法廷年次報告を発表 知的財産権司法保護を強化
先頃、中国最高裁は『最高裁知的財産権法廷年次報告(2024年)』を発表した。報告書によると、2024年に最高裁知的財産権法廷が受理した技術系知的財産権及び独占禁止案件は6229件(うち新規受理3015件)、裁判終了した案件は4213件、裁判未完の案件は前年同期比37.3%減の2016件であった。実体的案件の平均審理期間が約11.5日短縮され、「差戻し判決より変更判決」という理念を堅持し、差戻し判決はわずか2件、民事実体的案件の調停・取下げ率は40%を超えた。
科学技術革新の司法保護の面では、集積回路、工作機械、基本ソフトウェア、科学研究機器、バイオ医薬、新エネルギー、新材料などに係わる知的財産権紛争を適切に審理し、新規に受理した特許権侵害案件は818件で全体の四分の一以上を占めた。戦略的新興産業関連案件が年々増加し、2024年には全体の約三分の一に達した。「新エネルギー車の車台」に係わる技術秘密侵害案件では、懲罰的賠償を適用して6億4000万元を超える賠償を命じ、侵害差止め責任の具体的分担方法を細分化するとともに、非金銭的な義務の履行遅延金算定基準を初めて明確化し、当事者の積極的な履行を促した。種苗産業の知的財産権保護を強化し、植物新品種の二審民事実体的案件276件を受理し、裁判終了した案件は前年同期比6.4%増の166件で、品種権者の勝訴率は90%に達した。医薬品パテントリンケージ制度の完備化を推進した。2022年に医薬品パテントリンケージに係わる二審案件を受理して以来、法に基づき37件の上訴案件を受理し、すべて速やかに裁判を終了した。侵害賠償額の引き上げにより、司法判決の科学技術革新に対する指導的役割を引き続き強化した。懲罰的賠償制度を着実に実施し、権利濫用を効果的に防止して、知的財産権保護の難題解決に努め、「高品質」が「厳格に保護」されるようにした。18件の案件に対して懲罰的賠償を適用し、賠償総額は8億7300万元に達した。
公平な競争に対する司法保護の強化と全国統一の市場構築の支援の面では、2024年に最高裁知的財産権法廷が新規に受理した独占禁止案件は79件、裁判終了した案件は97件で、独占禁止法違反と認定された案件は17件で前年同期比4.6倍の増加となった。社会生活分野の独占禁止の法的規制を強化し、教育、医薬、食品、水道・ガス供給、モビリティサービス、建材供給等の生活関連案件31件の裁判を終了した。新規に受理した技術秘密侵害案件は34件、裁判終了案件は121件であった。虚偽訴訟、悪意訴訟、悪意の権利放棄等の不誠実な行為を法により制裁するとともに、故意の期限超過後の証拠提出、虚偽陳述等の不誠実な訴訟行為を法により制止させ、権利の不正取得等の違法行為の手がかりを積極的に移送した。「3D CAD」ソフトウェア著作権侵害案件では、上訴人が裁判所の発効した証拠保全命令に従わず、重要証拠を隠滅した等の民事訴訟妨害行為を行ったとして、最高額の罰金100万元を科した。上訴人は期限内に罰金を納付し、判決を受け入れた。
高水準の対外開放のサポートの面では、法廷は高水準の対外開放の推進に焦点を当て、涉外案件を法に基づいて公正に審理している。これまで6年間に新規に受理された涉外案件は年平均23.2%増加し、ますます多くの外国企業が中国の裁判所で知的財産権紛争を解決するようになっており、中国は国際的な知的財産権紛争解決の優先地の一つとなりつつある。「熱安定グルコアミラーゼ」特許権侵害案件では、デンマーク某社の2300万元を超える訴訟請求を法により支持する判決を下した。調停を積極的に活用して国際紛争を解決し、2024年に法廷が裁判終了した涉外案件のうち、調停または取下げで終了したのは71件で、調停・取下げ率は19%に達した。中英両言語の法廷案件年次報告と判決要旨の公表を継続しており、法廷の英語版公式サイトのアクセス数は1億2000万回を突破した。年間で裁判終了した民事二審実体的案件の調停・取下げ率は40.4%であった。(出所 「人民日報」の姉妹版「環球時報」公式サイト「環球網」)